医療経営プロフェッショナル柴田雄一「ニューハンプシャーMC」

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医療DX令和ビジョン2030の進捗(281)

デジタル化の性急な普及の弊害

今春オンライン資格確認の導入の原則義務化が行われています。また紙の健康保険証を2024年秋に原則廃止しマイナンバーカードへ一本化する方針を昨年秋に明らかにしています。その一方で、オンライン資格確認やマイナンバーカードに関するトラブル報告が頻発しています。筆者もクライアント先の医療機関から使い勝手に関する内容やトラブルなどネガティブな報告を受けてはいましたが、最近それが各メディアで取り上げられるようになり国民全体にもそれが伝わり始めています。 

例えば、発熱の患者に対して受付を通らずに直接隔離室や自家用車での待機など別導線を確保しているところでは、端末が一つしかないため顔認証を行えないためオンライン資格確認を利用できない、また端末の不具合電子カルテ等の接続不具合といったシステム的なトラブルや、有効な保険証が無効もしくはその逆など被保険者情報の誤りによるトラブルが多発しています。その一方でオンライン資格確認利用のメリットが現状医療機関側ではほぼなく現場からの不評を買っています。 

またマイナンバーカードに関してもマイナ保険証に他人の情報が登録されている、コンビニで他人の証明書が発行される、公金受け取口座が別人になっている、マイナポイントが他人に付与される等々、こちらも残念なことにトラブルが相次いで明らかになっています。これらはポイント事業の推進により急速にカードが普及とともに制度自体のこちらも急な広がりによって人的運用面、システム面ともに対応が不十分となっている中で起きているのだと思います。何でもそうかもしれませんが、新しいことをやればそれなりにミスやトラブルは起きるものです。とはいえ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は各方面において必須です。DXは時間がかかるもので、安全第一で進めていく必要があります。行政や医療の分野のDXは他業種に比べて遅れている分野であると言われており、事実新型コロナウィルス感染症の流行時にそれが露呈されてしまいました。 

医療DX推進のカギ

このような混乱の中で、2024年度診療報酬改定に向けて、今年の4月26日に厚生労働は中医協総会を開催し、改定審議のシリーズその1として、「医療DX令和ビジョン2030」の進捗を確認しました。これは自由民主党政務調査会によって2022年に医療のDXの推進について提言されたものがベースです。中医協総会開催直前の今年4月13日には自由民主党政務調査会 社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部 健康・医療情報システム推進合同PTによって、[「医療DX令和ビジョン2030」の実現に向けて ~保健医療情報のデジタル活用により、すべての国民が最適な医療を受けられる国へ~(概要)]と題した提言の取りまとめを発表しています。その内容は次の通りです。(自民党HPより転載に一部筆者が加筆)

・グランドデザイン:医療DXを通じたより効果的かつ効率的で質の高い医療の提供の実現等 
・ガバナンスの強化:厚生労働省の司令塔機能を有する部署の確保等 
・全国医療情報プラットフォーム:オンライン資格確認等システムの拡充等 
・電子カルテ情報の標準化等:標準化に関する集中的な取組みの実施等 
・診療報酬改定DX:共通算定モジュール
・標準型電子カルテ提供によるシステムの抜本的な改革等 

中医協総会の中では、オンライン資格確認システムを拡充する「全国医療情報プラットフォーム」の構築によって医療機関、自治体、介護事業者等での情報共有化構想の実現プロセスの議論や「電子カルテ情報の標準化」に向けたサービスを2025年頃までの構築を目指すことの確認、「診療情報改定DX」の目指すゴールとともにそれに向けたロードマップの確認等を行っています。AIの急速な進化によってよりDXは現場を変えるキーワードとなってきます。総論核論ともに議論を尽くして“使える”ものとしていきたいものです。 

株式会社ニューハンプシャーMC 
代表取締役・上席コンサルタント 柴田雄一